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救急医と遺伝性血管性浮腫

遺伝性血管性浮腫

遺伝性血管性浮腫という病気をご存知でしょうか?

 

遺伝性血管性浮腫(HAE:hereditary angioedema)は名前の通り、遺伝性変化により起こる血管性浮腫です

 

血管性浮腫は組織の深部に起こる浮腫で、局所的な血管透過性亢進が原因と考えられています

蕁麻疹と異なり、境界は不明瞭で痒みも伴いません

皮膚や気道、消化管に発生し、ドイツ人医師のクインケにより報告されたのでクインケ浮腫と呼ばれてきました

 

HAEはC1エステラーゼインヒビター(C1-INH)活性の先天的、もしくは後天的な欠損が原因で血管性浮腫が起こるとされます

(詳細はこちら→遺伝性血管性浮腫の病態と歴史

 

C1-INHは補体系や凝固系の因子、キニン系を抑制しますが、欠損するとキニン系を抑制できなくなり血管から水が漏れ出て浮腫が生じます

NEJMに、血管性浮腫の写真が載っていますが、かなり激しいです

 

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2012/nejm_2012.367.issue-16/nejmicm1200960/production/images/img_large/nejmicm1200960_f1.jpeg

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1200960

 

 

この疾患は、次の2つの点から診断が困難です

(1)希少疾患である

(2)症状が様々である

 

希少度について

現在、日本での患者数は、500人程度と考えられています

海外では5万人に1人と報告されており、それを考えると日本にも現状の4~5倍くらいの患者さんが潜伏しているのではないかと推測されています

 

しかし、何せ医師の間でもあまり知られていない疾患で、診断に結びつかないというのが現状です

 

各科の医師対象に行ったアンケート調査によれば、救急科の医師の中で知っているのは40%くらい、全体でも45%程度の知名度となっており、知名度の低さが明らかになっています

 

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(出典:Isao Ohsawa, et al. Pharma Medeica. 2011; 29: 109-118.)

 

症状が様々な件  

典型的な症状は皮膚の浮腫、腸管粘膜の浮腫による腹痛、喉頭浮腫による窒息とされます

ただし、これら3徴のうち全てが揃うのは50%程度とされています

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

皮膚症状は典型的には顔と陰部で、痒みはなく、圧痕浮腫ではなく、紅斑を作りません

少しだけ唇が腫れるだけという人もいれば、手足が腫れる人もいます

とりあえず、境界不明瞭な浮腫を見たらHAEを念頭において欲しいところです

 

腹部症状としては、70~80%の人に腹痛が認められるといわれております

軽度のものもあれば、嘔気・嘔吐を伴う激烈な腹痛があることもあり、HAEと診断されていない患者の3分の1が急性発作の際に開腹手術を受けてしまったという報告もあります

他の急性腹症との鑑別は難しいです

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

喉頭浮腫を起こす頻度は高くはないですが、HAE患者の半数が一生に一度は経験するといわれています

過去には30%近い人が窒息で死亡しておりましたが、近年診断と治療が進歩したため死亡率は激減しているということです

 

救急でHAEに出会うことは?

前述の通り、HAEは知られていないだけで、結構な数の患者さんが隠れているのではないかと考えられています

このような状況の中、大阪府の救命救急センターが協力して、見つかっていないHAE患者さんをきちんと拾い上げる活動をしました

呼吸困難や腹痛で受診される方の中に、この疾患を持つ人が混ざっているのではないかというわけです

 

結果どうなったかというと、新規のHAE患者さんが数人見つかりました

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

このような運動を通して僕もHAEに関心を持ち、今では新規患者さんの拾い上げや啓発に積極的に参加して、疾患の理解が深まるよう活動しています

 

診断と治療

HAEはC1-INHの欠乏による疾患なので、こちらの活性を測定することで診断がつきます

→「C1インアクチベータ活性」を調べる

また発作時には補体のC4が低値となることも多く、こちらもスクリーニングに利用できます

→「C4」を調べる

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

およそ外注検査になるはずなので、どこの病院にいっても結果は1週間程度待つことになります

 

治療としては、欠損していたC1-INHを投与すれば症状が落ち着きます

血液製剤になりますが、乾燥濃縮人C1-インアクチベーター(ベリナートP®︎)が販売されています

 

または、浮腫を起こす成分であるブラジキニンの受容体に拮抗作用するイカチバント(フィラジル®︎)も販売されています

こちらは患者さんが携帯し、発作時に自己注射することが可能となっております

 

両方とも高価な薬剤なので、常備している病院の方が少ないと思います

 

治療薬がない時は、気道管理や鎮痛、脱水予防などの支持両方を行うことになりますが、気道閉塞を起こしているのであれば、躊躇なく気管挿管など確実な気道確保を行う必要があります

救急医は気管挿管に抵抗がないので、気道閉塞のリスクを感じたらいち早く挿管するのですが、他科の医師は「できることなら挿管は避けたい」という気持ちが働くかもしれません

もちろん僕らも侵襲的なことはできるだけ避けたいのですが、「気道緊急のよる窒息死はもっと避けたい」ので、先手先手を打とうとします

 

気になる人は検査を

気道確保をすれば命は担保されるとはいえ、この遺伝欠損があると腹痛に悩まされたり、何度も浮腫を起こして命が危険にさらされたりすることになります

原因不明の浮腫や腹痛に悩んでいる患者さんが身近にいらっしゃったら、ぜひ一度検査受けてほしいなと思います

 

もし、C1-INHが正常であっても、近年C1-INHが正常なHAEの亜型も報告されています

 

詳細には診療ガイドラインがあるのでこちらも参考にしていただければと思います

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

遺伝性疾患なので、デリケートな問題を含む疾患ではあります

さらに、同じ遺伝子変異を持っているにも関わらず異なる症状を呈することがあったり、遺伝子変異があっても無症状ということもあり、よく分かっていない部分もある疾患です

 

様々な医療従事者がタッグを組み、救命から原因検索、治療と管理まで行い、1人でも困っている患者さんが減ったらいいなと思っています